小さな世界で生きるティーンたち
これまでにカルト映画と呼ばれる作品をたくさん観てきましたが、色んなジャンルや設定がありますが、その中でもある共通する特徴を持った映画があることに気づきました。
それは、10代のティーンエージャーを主役に、スケールは小さいながらも退屈な日常を必死で打破しようとする姿を描いたものです。
「ナポレオン・ダイナマイト」や「ゴーストワールド」はそんな感じでしたし、ドニー・ダーコも平凡な高校生の話です。
今回紹介する映画 天才マックスの世界 (Rushmore)も、アメリカの片隅の小さな小さな世界で奮闘する多芸多才な高校生を描いた作品です。
“Rushmore”, un acteur talentueux jouent des lycéens polyvalents qui luttent dans les meilleurs lycées.
“Rushmore”, a talented actor plays a versatile high school student struggling in a prestigious high school.
中二病の高次元的描き方
構成や舞台は高校ということで「ナポレオン・ダイナマイト」に似ているのですが、この主人公マックス自身は決して平凡ではなく超名門校に奨学生として通うほど優秀でした。
が、しかし演劇部やスポーツなどのクラブ活動を19個も掛け持ちし、歳の離れた女性教師に恋したことから理事長とトラブルを起こし、退学となり底辺高校に転校したりするはめになってしまいます。
そのひとつひとつの出来事が細かく描写されていくのですが、演劇部の描写はとくに本格的で、本物の映画撮影のようなシーンが展開されます。
反抗期ってほどじゃないんですけど、10代の時にありがちなドロップアウトや中二病を上品に描いているという感じですかね。
女性教師ローズマリーの部屋に雨の夜、ケガをしたふりをして偽の血を付けて入り込むくだりなどは、さすが演劇部の演出家をやっているだけあり、その計算ずくの流れに関心してしまいます。
そこらへんがなんかこう・・・ただの映画じゃないんですよ。
異彩を放つジェイソン・シュワルツマン
マックス役の ジェイソン・シュワルツマン (Jason Schwartzman)。
この俳優が非常にこの多才な問題児の役を繊細に表現し、その存在感と表情から目が離せなくなります。
1800人くらいの中からオーディションで選ばれたときは17歳だったジェイソンですが、最近の作品では同じくウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブタペストホテル』『ダージリン急行』などに出演している有名俳優です。
脚本を担当した監督 ウェス・アンダーソン と俳優 オーウェン・ウィルソン の10代の経験が込められているこの作品を演じられる俳優を選び出すのは難航しました。
身長は160㎝くらいで目立つところもなかったジェイソンですが、なぜか存在感を放つ不思議なオーラの裏には実はすごいバックグラウンドがあったのです。
ジェイソンは、映画プロデューサーのジャック・シュワルツマンと女優のタリア・シャイア(ロッキーで泣く女の人)の息子であり、「ゴッドファーザー」で有名な監督フランシス・フォード・コッポラの甥にあたり、いとこにソフィア・コッポラ、ニコラス・ケイジがいます。
たしかに顔が似てますね、ニコラスケイジに。
ソフィア・コッポラ監督のマリー・アントワネットではルイ16世を静かに演じていました。
今のジェイソンと、この天才マックスでの顔を比較するとちょっと同一人物には思えないんですけど、そのユニークさの光る細やかな役作りはやはり才能としか言いようがないのだと思います。
今のルックスはビートルズというかリンゴ・スターと見間違えるような風体ですが、仏文学『失われた時を求めて』の作者であるマルセル・プルーストにも似て見えるので、プルースト役がはまりそうだと思います。

そんなジェイソン演じるマックスと彼に振り回されるラッシュモアの関係者たちを巻き込んでカルト映画特有のモヤモヤしたもどかしいモラトリアムの雰囲気をまといながらもクールに展開していく学園ストーリーです。
シックスティーズ・ロックスが中心のサントラ
音楽は、60年代のロックを中心に、さりげなく流れます。
60年代後半のブリティッシュ・モッズ・バンド、ザ・クリエイション (The Creation) の
メイキングタイム (Making Time)
60年代半ばのブリティッシュ・インベイションに活躍したイギリスのフォークデュオ、チャド&ジェレミー (Chad&Jeremy) の『そよ風のキッス』(A Summer Song)
イギリスの三大ロックバンドのひとつと呼ばれる ザ・フー (The Who) の 『ア・クイックワン』(A Quick One, While He’s Away)
ザ・ローリングストーンズ (The Rolling Stones) の『アイ・アム・ウェイティング』(I Am Waiting)
マックスが夜、ローズマリーの部屋に忍び込んでベッドに横になりちゃっかりラジオをつけると流れてくるのは(かなり小さい音ですが)、『枯葉』(Les Feuilles mortes) で有名なフランスのシャンソン歌手 イヴ・モンタン の『愛と涙のバラードシャンソン』(Rue Saint-Vincent :Rose Blanche)
凧揚げ大会やら模型作りやら何やら器用にこなしつつ、ローズマリーにワープロで手紙を書くシーンではジョン・レノン (John Lennon) の 『オー・ヨーコ』 (Oh Yoko!)
70年代のイギリスのロックバンド、フェイセズ (Faces) の『ウー・ラ・ラ』(Ooh La La)
オープニングで流れる軽快なサントラは マーク・マザーズボー (Mark Mothersbaugh) の 『Mark Mothersbaugh』
大げさな邦題・ピンポイントな原題
邦題は大げさで「天才マックスの世界」っていうほど天才とも思わないんですけど、逆に原題の「Rushmore」(ラッシュモア)は高校名をそのまんまタイトルにしている矮小なマニアックさが面白いですよね。
これといった大事件も起きず、莫大な製作費がかけられているわけでもなく、どこにでもありそうな学生の日常生活をちょっと大げさに描いているだけなのですが、演技、背景、衣装、小道具など一つ一つが手を抜かずに渾身込めて作られている丁寧さと徹底ぶりが感じられる青春カルトムービーの代表作といえると思います。

天才マックスの世界 Rushmore
1998年 アメリカ 96分
監督 ウェス・アンダーソン
キャスト
ジェイソン・シュワルツマン(マックス・フィッシャー)、ビル・マーレイ(ハーマン・ブルーム)、オリヴィア・ウィリアムズ(ローズマリー・クロス)、シーモア・カッセル(バート・フィッシャー)
内容(あらすじ)
アメリカでも有数の名門全寮制プレップスクールであるラッシュモアに通う15歳のマックスは、天才と呼ばれるほどの頭脳明晰な生徒だったが、勉強そっちのけで演劇部をはじめとする沢山のクラブ活動の掛け持ちで問題児となりつつあった。ある日、学校の理事でもある鉄鋼会社の社長ハーマンと仲良くなるが、学校の美人教師ローズマリーに二人揃って恋してしまったことからバトルが展開し、学校を退学になる。