1998年というと個人的に印象深い映画が日本で次々と上映された年なのですが、話題になっていて気になりつつも結局観なかった・・・というより観逃した映画もけっこうあります。
私の場合この ガンモ (GUMMO)もそのひとつです。
“GUMMO” est un film très absurde, mais la vision du monde du réalisateur est artistique.
“GUMMO” is a very absurd movie, but it is an artistic expression of the film director’s worldview.
気持ち悪いけどがっつりオシャレな映像美
まずポスターからしてどんな映画なのか見当もつかない。
何を表しているのかわからない。
ウサギの被り物をしたガリガリの男の子が「ガンモ」なのか?
なぜウサギの恰好をしているのか?
なぜR指定となっているのか?
なにより、なぜあんなにも映画界で騒がれているのか?
当時の私はアート系の映画に疎かったので、まったく見当もつきませんでした。
それからかなり年月がたってからDVDで初めて観てみたのですが、猫の死骸が頻繁に出てくるところだけいやに覚えていました。
そしてさらに改めてもう一度見てみると、その不条理としか表現しようのない世界、汚い、気持ち悪い、グロテスクと思えるような演出がより複雑な鮮烈さを伴って蘇りました。
珍奇な人々
猫を殺してその肉を売る少年二人、いなくなった愛猫を友人と探しまくる姉妹、ゲイの小人症男性に口説かれるゲイの男性、キッチンでの腕相撲大会から暴力行為に発展していく兄弟、アルビノの女性、眉毛をカミソリで剃り続ける女性、乳がんで切除手術をする少女、延命装置をつけた寝たきりの老婆、上半身裸でアコーディオンを弾くウサギ姿の少年、慈善だと偽りチョコを売り歩く黒人の双子など、統一性のない風変わりな登場人物たちが次々に現れます。
この映画は障碍者を出演させていることでアメリカで批判を受けたこともあるそうです。
一つ一つのエピソードと登場人物はとても奇抜な感じなのですが、それぞれきちんとしたストーリーになっており、背景にある事情やつながりなど様々な想像力をかき立てます。
最初っから画面的には色も撮り方もリアルで気持ち悪いなーと思うところが多かったです。
みんな顔もなんかヘンに見えるし。
少年の一人が頭を洗ってもらいながらスパゲッティとチョコを一緒に食べ牛乳で流し込むシーンなど、この平凡な組み合わせでよくぞそんなにグロっぽく撮れたなと感心します。
今、こういう感じの映画ってあまりない感じがしますね。
日本で初上映されたときはシネマライズでの上映だったと思うのですが、当時ミニシアター系では一見意味不明なアート映画が全盛だったような気がします。
その中でもこの作品は監督ともにカリスマ性あふれる作品として知られており、ハーモニー・コリン (Harmony Korine) の前作「キッズ」(KIDS) と共に話題になりました。
ファッション性を感じるポップな色彩感覚
この映画、色彩が鮮やかでセットもファッションもスタイリッシュなので当時サブカルチャーの世界では注目されていた記憶があるのですが、中でもクロエ・セヴィニー (Chloë Sevigny)の存在が別格といっていいほどオシャレ度では群を抜いています。
他の作品でもそうなのですが、正統派美人ではない独特のバランスのオシャレ顔がいつみても個性的なファッションを引き立てています。
今でもファッション誌で頻繁に見かけますね。
彼女はデビュー前にファッション雑誌のインターンをやっていたことがあるということで納得しました。
ナッシュビルはカントリー音楽の中心地
音楽は、これといって特筆する曲はないのですが、まず冒頭の方でウサ耳の少年が歌っているのは
かなり昔のアメリカのフォークシンガー
アルメダ・リドル (Almeda Riddle) の My Little Rooster
ハーモニー・コリン監督の出身地であるアメリカ・テネシー州のナッシュビルはカントリー音楽の中心地として有名です。
バディ・ホリー (Buddy Holly ) の エブリデイ (Everyday)
ロイ・オービソン (Roy Orbison) の クライング (Crying)
など、ロックの始祖の曲がけっこう使われていますね。
グロテスクなシーンではブラックメタルのような激しい曲がかかります。
ストーナーロックバンドの スリープ (Sleep) の ドラゴノーツ (Dragonaut) など・・・
バッハ (Bach) の チェロ組曲第一番 (suite for solo cello no 1)
小柄で痩せ型のソロモンがダンベルで筋トレをしようとする際には
マドンナ (Madonna) の ライク・ア・プレイヤー (Like a Prayer) をかけます。
監督の原風景
この映画を観てもよくわからない、わけがわからないと思う人が大半かもしれません。
しかし、決して自己満足的なアート映画ではなく、監督自身が育ったナッシュビルという町で撮影され、そこの住人たちがたくさん出演しているというドキュメンタリー要素も交えた映画なのです。
監督自身の原風景をベースに、意味深なプロットをシャッフルして落とし込んでいくような作風で、個人のノスタルジックで複雑な心象をスタイリッシュに映画化した作品だと思いました。

ガンモ GUMMO
1997年 アメリカ 89分
監督 ハーモニー・コリン
キャスト
ジェイコブ・レイノルズ (ソロモン)、 ニック・サットン (タムラー)、ジェイコブ・シーウェル (バニーボーイ)、クロエ・セヴィニー (ドット)、リンダ・マンズ (ソロモンの母)
内容(あらすじ)
アメリカのオハイオ州ジーニア。数年前に竜巻の被害を受けて以来、復興もままならず荒廃していた。猫を狩っては肉を売りシンナーを買うソロモンとタムラーを中心に、住人たちの奇妙な日常風景がコラージュ的に描かれる。