パリで会ったガニェール
ピエール・ガニェールというミシュラン三ツ星シェフがいますよね?
私、料理学校の研修旅行で行ったガニェールのパリの本店のキッチンで初めて彼に会ったことがあるんです。
といっても「Merci 」と一人ずつ順番に挨拶して握手しただけなんですけど。
学校にもよく来ていたみたいだし日本にもお店があるので、テレビとかを含めいろんな所でお目にかかる機会は多いシェフですけどね。
背が低いんだけど頭がおっきくてフサフサ白髪の非常にインパクトのある容貌のシェフだなあと思いました。
若い頃の写真見ると普通のイケメンて感じですけどね。
Ce film m’a rappelé Pierre Gagnaire et mes expériences culturelles gastronomiques et l’utilisation du français dans les restaurants à paris.
This film reminded me of Pierre Gagnère, my gastronomic cultural experiences, and the use of French in restaurants in paris.
観ているだけでリラックスできる
で、今話題になっているベルギーフランス合作映画。
「青いパパイヤの香り」の監督トラン・アン・ユンの最新作、カンヌ映画祭監督賞受賞の ポトフ 。
上記のガニェールが料理監修、私が前に書いたデリシュ!と共通点がある映画ということもあり、新宿武蔵野館に観に行ってみました。
新宿武蔵野館ってフランス映画とか上映するといつもこういう大きな装飾セットが設置してありますね。
どんな映画なんだろうといつも通り時代と設定のみを調べて観たのですが、始まると何のことはない、音楽はなし、セリフもほとんどなしの料理シーンが続き、難しいことを考えさせる必要のない、肩の凝らないリラクゼーション効果のある映画だということがわかりました。どうりで年末ながら観客が多いわけだ。
料理を作る音がひたすら続き、しかし美しく鮮やかで美味しそうな絵図で飽きないです。食卓も鍋も畑も。
時代設定が違いますがデリシュ!の切羽詰まった感じとはまた違って料理をメインにゆったりと進んでいくので、料理のイメージ映像のようにも見えます。ま、刺激を受けて士気を高めたい人にはデリシュ!をおすすめしますが。
個人的に映画における食事シーンのカチャカチャぴちゃぴちゃとかその手の音声が苦手なので、そこはあまりいいとは思いませんでしたが、2時間以上の長い映画ながらダラダラとした流れにはならず、ベテラン女優ジュリエット・ビノシュの演技力できちっと引き締めている印象を受けました。
ビノシュはとにかく最近でも変わらずフランス映画に色んな女性の役でよく出てくるので、顔を観るとフランス映画の巣に戻ってきたなと帰属意識を感じてなんだか懐かしくなっちゃいますね。
そしてガニェール本人がシェフ役で出てきたのにはちょい驚きました。
なかなか個性的な雰囲気の役者ですね(笑)
登場人物たちが食事や料理をしながら語る
「ワインは知的な要素で、肉と野菜は物質的な要素だ」
「新しい料理を発見することは、新しい星を発見するよりわくわくする」
なんて台詞が印象的でした。
この映画自体に台詞が少ないし全体にわりと簡単なフランス語で構成されてると思うのですが、日本語に訳すのはなかなか難しかったと思いますよこれ。
absolumentを使う場所
観ていてパリのガニェール本店でのことを思い出したんですけど、我々が行ったのは夜(dîner)だったんですが店内に入っても暗闇に近いような暗さで、各テーブルに小さいキャンドルが一つずつのみの照明だったんですよね。
隣に座った男子に「暗いよね」と言ったらビクッとした顔をしたので、「照明が」と言ったら「あ~、照明がね」とホッとしていました。
きっと彼は普段から暗いとか言われていたのかもしれません。
ヨーロッパの飲食店は高級な店ほど照明が暗いということを後から知りました。
で、ガニェールが食事前にもちろんフランス語で挨拶をしたんですけど、その中で「absolument!」(アプソリュモン)〖絶対に〗という単語を言っていたのです。
おそらく「うちの料理をぜひ、堪能してほしい」みたいな感じだったと思います。
その前にホテルの部屋で旅のフランス語本をチェックしていた私はそこに載っていた「Je veux absolument manger français.」(ジュ・ヴ・アプソリュモン・マンジェ・フランセ)〖フランス料理を思う存分堪能したいです〗という例文をレストランで使ってみようと思って丸暗記していたので、ガニェールが言うということは本当にレストランなどに相応しい単語なのだろうなと思いました。

そしてガニェールの次の日に行ったのはパリの下町にあるカルトゥーシュという名前のいわゆる庶民的なビストロだったんですね。
そこでのシェフとかウェイターのノリがほんと、パリジャンのesprit丸出しって感じでとっても面白かったんですけど、我々お客を色々いじくってくるのに対し覚えたての仏語でぼちぼち返していた最中、さりげなく上記の例文を小声で言ってみたんですね。
そしたら思いの外異様な空気になってしまいまして。
「ん?!今なんて言った?もう一度言ってみろ?Je voudrais…?」とカルトーシュのシェフがやけにしつこく聞くので、大声ではっきりと「Je veux “absolument” manger français!」と言ってみたら、急に何とも言えない表情でテンションが低くなり「・・・absolumentなんて求めてない、うちの店にふさわしくない!いらん!」みたいなことをゴニョゴニョ言ってそそくさとキッチンの方に逃げて行ってしまったのです。
う~ん。フランスの飲食店には歴然たる区切りがあり、グランメゾンに分類されるガニェールと、たとえ世界的に名が知れていても街中のビストロ居酒屋では格が違う、伝統もやってる本人たちのスタンスも全く違うということでしょう。

ガニェールの店はそこそこの富裕層のパリ住民が、誕生日にディナーに来るくらいのレベルのように見えました。
「ハッピーバースデイトゥーユー🎂」とか暗闇の中ケーキ出してやってましたしね。
ん?でも英語で歌ってたってことは観光客かな?わかんないけど。
いずれにしても一人呑みしてる客がいたり屋外テラスでうるさくガヤガヤやっているビストロとは当たり前ですが全然違う雰囲気でした。
ただね、ガニェールの店員がカタコト日本語で「オイシイ?」と聞いてきたのは違和感がありましたけど。
だってオイシイとかマズイとかそういう感覚はまず湧いてこないですよ、ああいう料理普段食べませんし。
王道フランス語とタイスの瞑想曲で締めるラスト
あ、映画に話を戻します。
この映画のラストは素敵な感じがしました。
ネタバレって程でもないですが…
亡くなったはずの(生前?)ジュリエット・ビノシュが、「夏が好き」とか「私はあなたにとって妻?料理人?」などと聞くのですが、そこのフランス語が詩を読んでいるようでとってもシンプルながら美しいのです。
うんうん、私も(フランスの)夏が好きですから。
そんな柔らかい日差しの中で語られちゃ賛同するしかないです。
来た――――!!これぞフランス語の醍醐味!って感じのシーン。
質問に対し、ブノワ・マジメル演じるドダンは「料理人」という答えを出しましたが、ウージェニーことビノシュは満足気に見えました。
最後にやっと初めて音楽が流れます。
タイスの瞑想曲です。
なんだかずっと聴いていたくなりますね。
ポトフ 美食家と料理人 La Passion de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu)
2023年 フランス・ベルギー 136分
監督 トラン・アン・ユン
キャスト
ジュリエット・ビノシュ(ウージェニー)、ブノワ・マジメル(ドダン)、エマニエル・サランジェ(ラパン)、パトリック・ダスンサオ(グリモー)、ガラテア・ベルージ(ヴィオレット)、ボニー・シャニョー・ラボワール(ポーリーヌ)、サラ・アドラー(ポーリーヌの母)、ピエール・ガニェール(皇太子のお抱えシェフ)
内容(あらすじ)
19世紀末、フランスの片田舎で美食を追求し芸術の域まで高めたドダンと彼の考案したメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニー。二人の評判はもはやヨーロッパ中にまで広がっていた。ある時、ユーラシア皇太子の晩餐会に招待されたドダンは、食の真髄をアピールするために「ポトフ」を振舞うことにする。しかしその矢先、ウージェニーが病に倒れてしまう。








