キネカ大森という映画館でわりと夜遅くに『チタン』(TITANE) を観ました。
“TITANE” est un film qui stimule les sens du corps en dessinant au quotidien des intrigues très grotesques.
“TITANE” is a movie that stimulates the senses of the body by drawing very grotesque plots on a daily basis.
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監督の成長っぷりが目覚ましい
この作品がカンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞したことは知っていましたが最近映画館に足を運ぶのが億劫になってたため観ていませんでした。
この映画、美しい女性が車の上でポーズをとっているという秀麗なポスターを見ると一体どんなストーリーなのかと非常に気になりますよね。
この監督の『RAW 少女の目覚め』(2016年)を観たことがありますが、不気味で不安感を駆り立てつつ引き込んでいく構成だと思いましたがラストがちょっと陳腐だと思った記憶があります。
しかし今回のこの作品を観て、監督の作風がすごく洗練されたなーという印象が非常に強かったです。
ありえない話を観客のボディ感覚を刺激しながらさもありそうに描く
実際そこら辺にいないんだけどいそうな俳優が、実際起きないんだけどさも日常に起きるように撮ること、それが映画やドラマというものですよね。
主演のアレクシア/アドリアン役のアガト・ルセルも最初の辺りでショーダンサーのシーンを見ると相当なスタイルの良さと美貌だと思いますが、傷だらけの胸と膨らんだ腹にさらしを巻き、自ら鼻を折るなどして見た目を男性化させていく様子など、直視しがたいくらいの現実的なグロテスクホラーにどんどん展開が臨んでいきます。
幼少期に車の事故に遭い頭にチタンプレートを埋め込んだのがきっかけで殺人鬼になったり車と性行為をして快感を得るぶっちゃけド変態になってしまいます。
この作品は自動車事故に性的快感を覚える人々を描いたデヴィッド・クローネンバーグの「クラッシュ」(1996年)を意識していることは有名ですが、頭に金属って面で同じフレンチ・スプラッター映画「マーターズ」との共通点も感じました。
ちなみに「クラッシュ」はう~ん、そうだなぁ・・・ビジュアル的に痛そうなところは共通してるけど、交通事故に遭った人のボディを愛でる性癖の話という印象で(事故そのものを行為として楽しむというより)エロティックフェチ映画って感じで映像も大して綺麗じゃないし個人的に良さがわからないのでやっぱり車とダイレクトに性行為するチタンの大胆さを絶対におすすめします。
ミッドサマーにしてもクライマックスにしてもそうですが、ホラー映画ってごく普通の日常場面を映像と効果音などの演出によって全体的にホラーに見せるんですよね。
アレクシアが車で男性に襲われそうになって殺したあとシャワーを浴びるためにショールームに戻るシーン、そのシャワールームがごく普通の駐車場とつながってるんですけどね、なんとも不気味な色合いと雰囲気になってるんです。
映画全体がいかにもホラースリラーなんですがその色彩と音による演出がとても美しく非日常的に見えます。
そして彼女がホームパーティーで客を次々と惨殺するシーン、椅子の脚で口の中から顔面刺しちゃうなんてすごいですね。
なんか刺されたほうの感覚になれるということなのか、そのシーンだけ効果音がまるで鼓膜が塞がれたようなくぐもった感じになるんです、こっわー。
五感を刺激するというか、いや視覚・聴覚・触覚の三感かな。それらをめっちゃくちゃに刺激していきます。
ミスマッチな?ロック系の選曲
音楽も、ねっとりしたロックっぽい曲が突然大音量で流れます。
監督は英国の映画音楽家ジム・ウィリアムズに「チタンをイメージさせるように金属音を入れてほしい」とお願いしたようです。
どことなく郷愁を感じさせるロックばかりなので、なんとなくフレンチホラーのこの映画には合わないなぁと思ったのですがそれも狙いなんでしょうかね??
60年代英国のバンド・ゾンビーズ (The Zombies) の She’s Not There
米シンセポップロックバンド・フューチャー・アイランズ (Future Islands) の Light House
米フォークソングの Wayfaring Stranger
あ、そうそう心臓マッサージを「ヘーイ、マカレナ!」の歌に合わせてやれと指示されるシーンもありますね。
シュールだったなぁ。
なんか懐かしい歌だと思ったけど1993年の曲なんですね、ロス・デル・リオ の 恋のマカレナ。
個性的な進行と衝撃のラスト
映画館の強調された爆音で観るとやはり迫力とドキドキさが違いますし、夜遅くの客がまばらな映画館というのもこういう作品にはぴったりでした。ミッドサマーもそうだったな。
ショーダンサーのアレクシアが実は凶悪猟奇殺人犯でありいつのまにかよその息子であるアドリアンになり消防隊員になっている・・・という流れを理解するのがちょっと性急すぎてできなかったのですが、後から考えてみるとその外見の変化も含めたスピード感がすごく面白いと思います。あれあれあれ?みたいな。
この監督、見た目女優さんみたいな細身で上品な雰囲気の美人なのですが、両親が皮膚科医と婦人科医だということで、小さい頃からこういった人体の資料や標本的なものに触れていたのでしょうね。
「RAW 少女のめざめ」でもこの作品でも、痒い痒い!って皮膚をかきむしるシーンがありますし、生々しい皮膚や肉の感覚を描くのが得意ですもん。
チタンって人工関節置換術にも使う材質ですし。
「少女のめざめ」の時は生々しさを美しく描くのには成功していましたが今一つ作品としての完成度が低いと感じました。
しかし今回は以上のような現実感覚を存分に刺激するグロテスクなリアリティを持たせつつドキドキハラハラをラストまで引っ張り最後にはファンタジーの要素すら感じられる結末が用意されており、とても感動的な仕上がりになっていると思いました。
「感動」っていってもいわゆる感動モノのことではなくてまぁグロさとか暴力性とかエキセントリックな演出含めてですけどね。
そのぐらい迫力満点な映画ってことです。
実際退屈になるシーンはありませんでしたしね。
この映画、考察の余地がたくさんあるでしょうし、様々な問題を引き起こしている問題作だと思います。
前作からの成長ぶりといいジュリア・デュクルノー監督って面白いなあと思いました。
次の作品にも絶対に期待しますね!!

チタン TITANE
2021年 フランス 108分
監督 ジュリア・デュクルノー
キャスト
アガト・ルセル(アレクシア/アドリアン)、ヴァンサン・ランドン(ヴァンサン)、ギャランス・マリリエ(ジュスティーヌ)、ライス・サラーマ(ライアン)、ドミニク・フロ(マカレナの女性)、ミリエム・アケディウ(アドリアンの母親)、ベルトラン・ボネロ(アレクシアの父親)
内容(あらすじ)
幼い時に車で交通事故に遭ったため頭蓋骨にチタンのプレートを埋め込んでいるモーターショーダンサーのアレクシアは車に対して異常な性癖を持っている。犯罪を犯し指名手配された彼女は、消防士のヴァンサンと出会い、行方不明になっている彼の息子になりすまし、消防隊員としての生活を送るのだが、彼女は妊娠していることを隠していた。